
はじめに
2026年5月のNew Relicアップデートから、SRE業務に直結する3つの機能を取り上げる。Cloud Cost Intelligence、Mobile Session Replay、そして Database 360 だ。
Cloud Cost Intelligence と Mobile Session Replay は、2026年4月28日に一般提供(GA)が始まった。Database 360 は2026年2月に発表され、現在はプレビュー段階にある。それぞれ、クラウドコストの可視化、モバイルアプリのユーザー体験の記録、データベースのクエリ診断を担う。
Database 360 は Oracle や PostgreSQL を含む複数の DBMS に対応し、実行計画レベルでクエリのボトルネックを追える。AWS RDS 環境を運用しているなら、調査対象になる機能だ。
注目アップデート深掘り
Database 360: Oracle対応とクエリレベル診断の実現
Database 360は、New Relicがプレビュー公開したデータベース性能可視化機能です。最大の特徴は、Oracle、PostgreSQLをはじめとする複数のDBMSに対応し、実行計画の分析からボトルネックを特定できる点にあります。
実行計画まで見えることの意味
従来のデータベース監視では、クエリの実行時間やスループットといったメトリクスレベルの監視が中心でした。しかし実際の障害対応やパフォーマンスチューニングでは、「なぜそのクエリが遅いのか」という根本原因の特定が最も時間を要する作業です。Database 360は実行計画という、データベース内部の処理戦略まで可視化する。インデックスの欠如やフルテーブルスキャンを、メトリクスからの推測ではなく実データで確認できる。
障害対応フローへの組み込み
障害対応の現場では、アプリケーションからのタイムアウトエラーやレスポンス遅延のアラートを受けて、まずAPMでボトルネックを特定し、次にデータベース側の調査に移行するという流れが一般的です。Database 360を活用することで、問題のクエリを特定した後、即座に実行計画を確認し、インデックスの欠如やフルテーブルスキャンといった非効率な処理を発見できます。これにより、MTTRの短縮だけでなく、開発チームへのフィードバック品質も向上します。
また、AWS RDS環境においては、複数のOracleインスタンスやPostgreSQLインスタンスを運用するケースが多く、これらを統一したプラットフォームで監視できることは運用負荷の軽減に直結します。特に、コスト最適化の観点からは、非効率なクエリを改善することでデータベースインスタンスのスペックダウンを検討する際の定量的な根拠を得られる点が重要です。
Note: Database 360はプレビュー段階の機能であり、本番環境への適用前には十分な検証が推奨されます。対応DBMSや制約条件については公式ドキュメントを確認してください。
Cloud Cost Intelligenceによるコスト最適化の加速
2026年4月に一般提供が開始されたCloud Cost Intelligenceは、クラウドコスト最適化の意思決定を高速化する機能です。AWS環境におけるリソース効率化の優先順位付けを定量的に判断できるようになり、SREが日常的に直面する「どのリソースから最適化すべきか」という課題に対する明確な指針を提供します。
コスト分析が分散している問題
クラウド環境では、EC2インスタンス、ECS、Lambda、RDSなど多様なサービスが組み合わさり、コストは複雑に絡み合います。従来は各サービスのコストレポートを個別に確認し、手動で分析する必要がありましたが、Cloud Cost Intelligenceはこれらを統合的に分析し、コスト削減の機会を自動的に特定します。
運用判断での使いどころ
インフラ運用において、パフォーマンスと可用性を維持しながらコストを最適化することは常に求められる課題です。Cloud Cost Intelligenceを活用することで、例えば使用率の低いEC2インスタンスや、過剰にプロビジョニングされたRDSインスタンスを素早く特定できます。これにより、定期的なコストレビュー会議での報告資料作成や、経営層への改善提案が容易になります。
また、監視とコスト管理が同一プラットフォームで実現できることで、パフォーマンスメトリクスとコストデータを関連付けた分析が可能になります。例えば、特定のデプロイ後にコストが急増した場合、APMデータと併せて原因を追跡できるため、問題の早期発見と修正につながります。
Mobile Session Replay: モバイルアプリの実ユーザー体験可視化
同じく2026年4月に一般提供となったMobile Session Replayは、モバイルアプリケーションにおけるユーザー操作を可視化する機能です。エラーやパフォーマンス問題を実際のユーザー視点で再現・分析できるようになり、ネイティブアプリの障害対応が大きく改善されます。
再現できない障害という壁
モバイルアプリの障害対応では、エラーログやクラッシュレポートだけでは問題の再現が困難なケースが多く、「ユーザーが何をしていたときにエラーが発生したのか」という文脈情報が不足しがちでした。Mobile Session Replayは、実際のユーザーセッションを記録・再生することで、この情報ギャップを埋めます。
バックエンド運用との接点
モバイルアプリのバックエンドAPIを運用するSREにとって、フロントエンドの挙動を理解することは重要です。Mobile Session Replayを活用することで、特定のAPI呼び出しが失敗した際のユーザー操作フローを確認でき、問題がバックエンド側にあるのか、クライアント側の実装にあるのかを迅速に判断できます。これにより、開発チームとの協業が効率化され、責任範囲の切り分けもスムーズになります。
また、パフォーマンス問題の分析においても、ユーザーがどの画面遷移で遅延を体験したかを視覚的に把握できるため、改善の優先順位付けが容易になります。
SRE視点での活用ポイント
監視・アラート・ダッシュボードの改善
Database 360の導入により、既存のAPMアラートに加えて、データベースレベルでの詳細な監視が可能になります。例えば、実行計画に非効率なパターンが検出された際にアラートを設定することで、パフォーマンス劣化を未然に防ぐプロアクティブな運用が実現できます。また、Cloud Cost Intelligenceのデータをダッシュボードに統合することで、パフォーマンスメトリクスとコスト情報を並べて表示し、経営層への報告資料としても活用できます。
AWS環境でのNew Relicエージェント運用における影響
AWS RDS環境でDatabase 360を活用する場合、RDSインスタンスへの接続設定が必要になる可能性があります。EC2上で動作するアプリケーションやECSタスクからのデータベースクエリを追跡する際には、APMエージェントの設定が適切に行われていることが前提となります。また、Lambda関数からのデータベースアクセスについても、New Relic Lambda Extensionが適切に構成されていれば、同様に追跡可能です。
すぐに試せるTips
Database 360がプレビュー公開されている場合、まずは開発環境や検証用のRDSインスタンスで有効化し、遅いクエリのトップ10を確認してみることをお勧めします。実行計画の分析結果と、既存のAPMデータを突き合わせることで、最も効果的な改善ポイントが見えてきます。Cloud Cost Intelligenceについては、まず過去30日間のコストデータを分析し、使用率の低いリソースをリストアップすることから始めるとよいでしょう。
アップグレード時の注意点やリスク
Database 360はプレビュー機能であるため、本番環境への適用前には十分な検証が必要です。特に、実行計画の取得がデータベースのパフォーマンスに与える影響を事前に確認してください。Cloud Cost IntelligenceとMobile Session Replayは一般提供されているため、比較的安全に導入できますが、Mobile Session Replayについてはユーザープライバシーへの配慮が必要です。記録対象とする画面や操作、個人情報のマスキング設定を事前に計画してください。
全アップデート一覧
| カテゴリ | 機能・バージョン | 概要 |
|---|---|---|
| Platform | Cloud Cost Intelligence | AWS環境のコスト削減施策を素早く特定・実行可能にする機能。リソース効率化の優先順位付けを定量的に判断でき、インフラ運用の意思決定スピードが向上(一般提供開始、2026年4月28日) |
| Platform | Mobile Session Replay | モバイルアプリのユーザー操作を可視化し、エラーやパフォーマンス問題を実ユーザー視点で再現・分析可能に。ネイティブアプリの障害原因追跡を効率化(一般提供開始、2026年4月28日) |
| Database | Database 360 | Oracle、PostgreSQL等に対応したデータベース性能可視化機能。実行計画の分析からボトルネックを特定し、クエリレベルでの詳細な性能診断を実現(2026年2月発表、プレビュー) |
まとめ
3つの機能は、それぞれ別の領域をカバーする。Database 360 はデータベースのクエリ診断、Cloud Cost Intelligence はクラウドコストの可視化、Mobile Session Replay はモバイルアプリのユーザー体験の記録だ。
Database 360 はプレビュー段階だが、実行計画まで踏み込んだ分析ができる。AWS RDS で Oracle や PostgreSQL を運用していて、クエリの遅さの原因究明に時間を取られているなら、検証する価値がある。
Cloud Cost Intelligence と Mobile Session Replay はすでに GA に入っている。前者は使用率の低いリソースの洗い出し、後者はモバイル障害時のユーザー操作の再現に使える。どちらも既存の APM データと突き合わせると効果が出る。導入時は、Mobile Session Replay のプライバシー設定(記録対象の画面、個人情報のマスキング)を先に決めておきたい。