
はじめに
前回のまとめ(3月26日公開)以降、New Relicからは計6件のアップデートが出ています。Infrastructure Agent v1.73.0 と v1.74.0 の2リリースは同じ機能(Windows向け最小権限サービスアカウント対応)をめぐる実装とrevertで一対になっており、アップグレード先の選択に注意が必要です。加えて、標準MFA機能の追加、Go APMの簡単計装ツールのリリース、運用ナレッジ系のQiita記事2本(アラート逆引き集、SAP GUI外形監視)を取り上げます。
注目アップデート深掘り
Infrastructure Agent 1.73.0 → 1.74.0 — revert されたWindows最小権限サポート

3月末に連続で2リリース出ましたが、ペアで見ると理解しやすいです。
- v1.73.0(2026-03-27): Windows向けに「最小権限サービスアカウント」サポートを追加(PR #2152)。加えて
nri-winservicesv1.4.6、nri-prometheusv2.28.0 への依存更新 - v1.74.0(2026-03-31): その最小権限サポートを丸ごと revert(PR #2211)。リリース名自体が
1.74.0 - Bad release ⚠️となっており、メンテナ側も注意喚起している状態です
1.73.0 でWindows環境のエージェントを Local System より狭い権限で動かす道が開けたものの、本番での問題が見つかり 1.74.0 で巻き戻された、という流れです。SREとしての現実的な選択肢は次の通りです。
| 現在のバージョン | 推奨アクション |
|---|---|
| v1.72.9 以下 | 1.74.0 はスキップ。次の安定版リリースまで待機 |
| v1.73.0(Windows) | 最小権限設定で運用中なら機能利用を一時停止、または 1.72.9 へダウングレード検討 |
| v1.74.0 | revert 済みなので機能差は 1.72.9 相当。Bad release タグに注意して、差し支えなければ次版まで据え置き |
Windowsパッケージマネージャー(Chocolatey等)でバージョン固定する場合の例を載せておきます。
# Chocolatey での pin 例
choco pin add -n=newrelic-infra --version=1.72.9
# 後で解除する場合
choco pin remove -n=newrelic-infra
Linux側も同じく pin しておくと意図しないアップグレードを防げます。
# RHEL / Amazon Linux
sudo yum versionlock add newrelic-infra-1.72.9
# Debian / Ubuntu
sudo apt-mark hold newrelic-infra
New Relic 標準MFA — メールリンク方式の多要素認証
標準MFA機能が追加され、外部SSOやサードパーティのIdPを経由しなくても、New Relic単体でメールリンク方式の多要素認証を有効化できるようになりました。Qiitaの公式記事(MarthaS 氏の解説)で設定手順と挙動がまとまっています。
挙動はシンプルで、ログイン試行時に登録メールアドレス宛に認証リンクを送信し、リンククリックで本人確認を完了します。TOTP(Google Authenticator 等)ではなく、メールリンクというのがポイントで、既に組織で使っている SSO と排他にせず「SSOが未導入のユーザーだけMFAを有効化する」といった段階的な運用が組みやすいです。
運用上の注意点:
- 緊急障害対応で New Relic にログインする際、メール受信が遅延すると初動が遅れる可能性があるので、オンコール担当のメールフローは事前に確認しておく
- 共用アカウントに対して MFA を有効化すると複数人が同じメール箱を参照できる必要がある。組織ポリシーと矛盾しないか確認を
- 既に SSO(Okta, Azure AD等)経由のログインを強制している環境では、標準MFAは追加保険として位置付ける
Go easy instrumentation tool — diff ベースのAPM計装自動化

Goはコンパイル言語でランタイムフックによる自動計装が難しく、New Relic Go Agent は「SDKとしてコードに手を入れる」方式でした。transaction の開始終了、http.Handler のラップ、外部呼び出しの segment 記録などを手書きで入れる手間が、導入のハードルになっていました。
今回リリースされた go-easy-instrumentation は、ソースコードを静的解析して計装ポイントを検出し、diff ファイルを生成します。生成された diff を確認してから git apply で反映できるので、「AIが勝手にコードを書き換える」系のツールと違って、レビュー可能な形で差分を渡してくれます。
基本的なワークフローは3ステップです。
# 1. ツールをインストール
go install github.com/newrelic/go-easy-instrumentation@latest
# 2. 計装 diff を生成(対象ディレクトリを指定)
go-easy-instrumentation instrument ./cmd/myapp > newrelic.diff
# 3. 差分を確認してから適用
git apply newrelic.diff
go mod tidy
SRE視点では、「Go製マイクロサービスを複数抱えているチームが初めて New Relic APM を入れるときの初期コスト」が下がるのが効きます。既に計装済みのサービスには使えませんが、PoC段階のサービスや、オブザーバビリティ後付けの対象になっているレガシーGoコードへの導入で真価を発揮します。
ナレッジ系アップデート
New Relic アラート逆引き集 — 症状別トラブルシュート
Qiita の knr2636 氏の記事 は、New Relic Alerts で実際に遭遇しがちな症状を「鳴らない」「止まらない」「遅延する」の3カテゴリに分けて、公式ブログへのリンク集として整理した参考ガイドです。
取り上げられている主なトピック:
- Streaming method の違い(Event flow と Event timer の使い分け、レイテンシ特性)
- 鳴らないアラートの原因: NrAiSignal の確認、
for at leastとat least once inの挙動差 - 通知遅延の診断: Streaming method ごとの発火遅延要因
- Signal lost の誤検知、自動クローズの失敗
- 通知内容のカスタマイズ、除外設定の削除手順、メンテナンスウィンドウでの通知抑制
アラート設定でハマった経験があるSREなら、「あの症状はこれか」と気づける項目が並んでいます。チームの新人向けトレーニング資料としても使いやすい構成です。
SAP GUI をユーザー視点で監視する — Panaya + New Relic Flex
Qiita の naka34 氏の記事 は、デスクトップアプリである SAP GUI を外形監視する実装例です。SAP のようなクライアント/サーバー型アプリでは、従来の Infrastructure 監視や Synthetic(HTTP)では「ユーザーが実際の画面で体感しているレスポンス」を捉えきれません。
New Relic Flex とは? Infrastructure Agent の拡張機構で、任意のコマンド実行結果やJSON/HTTP APIレスポンスをメトリクス・イベントとして New Relic に送信できる仕組みです。公式Integration がない独自システムを監視する際の定番アプローチになっています。
記事の構成は次の流れです。
- Panaya(テスト自動化SaaS)で SAP GUI の操作シナリオをスクリプト化(ログイン→取引画面→特定操作)
- Panaya の Test Automation API をシェルスクリプト経由で定期実行
- 実行結果(成功/失敗、所要時間)を New Relic Flex で取り込み
- Data Explorer / ダッシュボードで SLI として可視化
Synthetics でカバーできないクライアントアプリの外形監視を、既存の Flex + 外部テスト自動化サービスの組み合わせで成立させている点が参考になります。SLO 設計の文脈でも、ユーザー操作レベルの指標を拾う方法として引き出しを増やせる内容です。
SRE視点での活用ポイント
今回6件の中で、運用優先度が高いのは Infrastructure Agent のバージョン選定です。Windows 環境で 1.73.0 に既にアップグレードして最小権限モードを使い始めていた場合、その機能は 1.74.0 以降では削除されているため、運用ドキュメントや Playbook の更新が要ります。Linux 環境では両バージョンとも実質的な機能差は小さいので、次の安定版を待つ判断が取りやすいです。
標準MFAは「SSO未導入の小さなチームで、とりあえずパスワード単独ログインから脱出したい」ケースにはまる機能です。逆に既に Okta や Azure AD で SSO を敷いている環境では、アカウント個別のオプションとして見ておけば十分でしょう。
Go easy instrumentation は、いま計装済みサービスには不要ですが、「Goで新しく書いたサービスに後から APM を足す」タイミングで選択肢に入れておくと工数を削れます。差分がファイルで出る設計なので、レビュー付きの導入フローに組み込みやすいのが利点です。
アラート逆引き集と SAP GUI 監視は、どちらも「困ったときに参照する引き出し」としてブックマークしておくタイプのコンテンツです。特にアラートの Streaming method まわりは、設計時の選択がその後の発火遅延に効いてくるので、新規アラート追加のたびに参照する価値があります。
全アップデート一覧
| カテゴリ | バージョン / 機能名 | 概要 |
|---|---|---|
| Infrastructure Agent | 1.73.0 | Windows向け最小権限サービスアカウント対応を追加(PR #2152)、依存更新 |
| Infrastructure Agent | 1.74.0 ⚠️ Bad release | 1.73.0 の最小権限機能を revert(PR #2211) |
| Security / Auth | 標準MFA機能 | メールリンク方式の多要素認証を単体で有効化可能に |
| SDK / Tools | Go easy instrumentation tool | Go APM 計装を diff + git apply ベースで自動化 |
| Alerts / Knowledge | アラート逆引き集(Qiita) | 鳴らない/止まらない/遅延するの症状別トラブルシュートガイド |
| Monitoring / Flex | SAP GUI 外形監視(Qiita) | Panaya + New Relic Flex でデスクトップアプリを可視化 |
まとめ
Infrastructure Agent 1.73.0/1.74.0 の一対リリースは、Windows で最小権限運用を狙っていたチームにとっては「一歩進んで半歩戻る」結果になりました。次の安定版が出るまで、現行バージョンを pin しておくのが無難です。標準MFAは SSO 未導入の組織に効く小粒な追加、Go easy instrumentation は Goアプリへの APM 導入コストを下げるツールで、どちらも使える場面が明確に決まっています。運用ナレッジ側は、アラート設定の引き出しを増やすのに役立つ2本でした。